川のある街

川のある街に住んでいる。

週末、夕食に行ったお店からの帰り道、雨に濡れた橋を歩いて渡るとき、ふと以前暮らしたヨーロッパの街の景色がフラッシュバックした。

仕事帰りに毎週のように通っていた居酒屋からの帰り道、橋の向こうのトラムの停留所まで歩いていくさま。ほろ酔いの顔をひんやりかすめる風が心地よい。振り返れば、丘の上にそびえる大きな城。橋を半分以上渡ったあたりから振り返ると、ちょうど絵葉書のような景色になる。橋を渡った先に鎮座する立派な建物は、国民劇場。週末を迎えた劇場前の停留所には、トラムを待つ、いつもより少し陽気な人々。

私の家のほうへ向かうトラムは行ってしまったばかりのようだ。国民劇場の前を過ぎて、さらに歩く。デパートの角を右へ曲がったところに、別の停留所がある。停留所の周りは、すでに酔っ払った楽し気な人々であふれ、目の前のピザ屋からオリーブオイルの焼ける匂いがただよう。

なんだか今日は気分がいい。仕事の疲れとアルコールで体は少し重たいが、もう少し風に当たっていたい。私は右手に持っていたかばんを肩に掛け、家まで歩いて帰ることにした。

 

嘘。全部、幻想。

でもね、ふと、はっきりと浮かんだんだ。胸がぎゅんてなるくらい懐かしい、「私の街」の光景だった。